パンドラの箱の中には…

普段ゲイ生活の36歳。ゲイ生活の中で得たスキルや知識をアウトプットするゲイブログ。

ACT.4:SILENT REFRAIN

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きっともう会えない人だけど、それでもいいかな。
だってもう、自分は自分だから。
後ろは振り向かない。

 

心の中でそう言い聞かせつつも、
正直のところ、
立ち直れない程ではないにしても、
少し後悔もしていた。

 

何に後悔しているかと言えば、
もっと会いたかったなってこと。

 

所詮、売り専ボーイなんだから、
定期的に会いに行くモンじゃないのは何となく理解している。

 

大好きなアーティストのライブに行って、
実際に目で見て歌を聞きたいでしょう。
僕の中では、そんな感情に近い。
彼と会って2回目以降は、
益々彼のファンになっていた。
だから、大好きなビデオモデルに会いたいから売り専に行ってた。

 

それに僕はこの2時間のロマンスが好きだった。
この2時間が夢と現実の行き来をするのに一番ちょうどよい時間だと思う。
それで、明日も気合入れようなんて思えたら、尚の事良い。

 

最低な話だけど、
お金を払えばいつでも会えるだろうなんて安易に思ってた。
忙しさにかまけて、
忙しくなくてもちょうど今月はお財布事情が厳しいから来月にしようなんてやってるうちに、
自分の中でも少しずつ彼の記憶が薄れて行き、
そして気がついた頃には、彼はお店を辞めてしまっていた。

一緒にするのはおかしいけれど、
安室奈美恵の引退の時と同じような気持ち。
寂しいけれど、「まぁしょうがないよね。」って。

 

あれから約1年。
仕事はうまくいってる。
厳密にいうと、やりたいことをやりつくして、
今ちょうど落ち着いているところ。
これと言って新しくやりたいこともないので、
流れてくる業務を機械的に熟す日々。

 

Twitterに関しては、その頃再開したけど、
誰もフォローしてないし、されていない。
ただちょっと何か知りたい時のトレンドや検索は便利だ。

 

ピンクの出会い系アプリも再開した。
広告の作成を頼まれたので、会員登録をしないと、
作ったバナーの仕上がりを見ることができないからだ。
そのついでに、良い出会いがあればいいなとは思うけど、
どうもこの手のアプリは僕には不向きのようだ。

 

アレがムカつく、コレがムカつくというのも少なくなった。
あっても、寝て起きたら忘れるようなレベル。
職場以外で人と会う機会がほとんどないから、そんな感情が湧いてこないんだろう。
仕事が終わったらコンビニでお酒とおつまみを買って家に帰って、
YoutubeやらHuluを鑑賞している。
でも結構そんな生活も悪くない。至って穏やかな時間。

 

でも、ある日ふと、
「今日はちょっと外でぼぉっと飲みたい。」と思った。
なぜか分からないけど、
僕の事をさほど知らない店で、ちょっと軽く飲みたい。

 

少し残業をして会社を出て、
その足で1年に2、3回行くか行かないかくらいの頻度のお店に立ち寄った。

 

そこのスタッフとは、「おはよう。久しぶり。」「お会計で。」くらいしか話をする機会はない。
だいたいビールを2、3杯サクッと飲んで、サクって帰ってしまう。
その日もそうなるつもりだった。

 

お会計をしようとしたときに、
まさかの彼が現れた。

 

「あ。」

 

開いた口が塞がらない。
普段ゲイビデオの中でしか観ることのない彼がここに居る。

 

よくわからない間が空いて彼は、
「今、ここで働いているんだ。」

 

「そ、そうなんだ。」
僕は戸惑ってこれ以上のことしか言えない。

 

他のスタッフがそんな姿を見て、
「知り合い?だったら前に付きなよ。」と彼に声をかけた。

 

カウンター越しに僕と彼が向き合う。
1年前にベッドの上で向き合った以来だ。
自分がファンな人が、
そして売り専で指名してヤった男が目の前に居る…。
結構、想像以上に気まずいものだ。

 

「そんなにオドオドしないで。今日のスタッフはみんな自分の事を知っているから大丈夫だよ。」
そう優しく声をかけてくれた。

 

 

「いつからここで働いているの?」
「数ヶ月前くらいかな。辞めたあとに比較的すぐこっちに来た。」

 

 

それを皮切りに、少し会話がはずんだ。
当時掘り下げて聞かなかったビデオのことや、
売り専の事をいろいろ話してくれた。

 

正直緊張して細かい話の内容が全然思い出せないけど、
少なくとも彼はずっと笑っていた。
売り専でも、ビデオの中でもあまり見せない笑顔。
そんな笑顔ができる人だったんだと、少し親近感が湧いた。
ずっとカッコいいイメージを持っていたけど、なんだか今は可愛く見える。

 

「もうなんだかんだ今月誕生日でまた更に年を取っちゃったし、売り専やっていられないかなって。」

 

さり気なく今月が誕生日だって、ぶっ込んで来る所に、
売り専時代のあざとさも感じたけど、素直にお祝いをした。
でも今日が初めてだし、安いお酒にしちゃったけど。

 

「また遊びに来るよ。」
その日はそれで帰った。

 
もう会うことはないんだろうなと思ってた人が、
突然目の前にあらわれて、なんだかフワフワしていた。

 

ふと帰り道に、
今日彼と会ったことで、
初めて売り専に行って彼に会ったときの気持ちをまた思い出してきた。

 

売り専を辞めて、新しい道を歩き始めた彼を見て、漠然と、

 

 

「今、何かがしたい…。」って。

 

 

 

明後日も仕事が終わった後にお店に立ち寄ってみた。
普段あまり会話をしないスタッフも、
「最近良く見るねぇ。」なんて声をかけられて苦笑いした。

 

「あいにく今日はお休みなのー。」

 

「そっかぁ。」
何となく残念な気持ちと、ほっとした気持ちの両方が出た。

 

 

「でも彼、あなたに連絡取りたがっていたよ?
何かあったの?」

 

 

 

え…?